平成23年度 食育実践活動推進事業の取組内容

講義内容

世界の長寿食から考えるバランスのよい食事

講 師 今井 具子 同志社女子大学 生活科学部 食物栄養科学科 教授

内 容

1. どこが違う長寿・短命地域の食事

長寿地域と短命地域の食事はどこが違うか、家森先生が主宰されたWHOの研究を参考に紹介しましょう。長寿地域の食事を見てみると、カスピ海ヨーグルトの故郷、グルジアのコーカサス地方では、平たいパンを主食に食べます。プルーン、ぶどうなどの果物を多く食べ、野菜、煮豚、フレッシュチーズもよく食べます。

中国の客家では米が主食。野菜は乾物にして利用し、豆腐、豚肉などは蒸し物にして食べます。貴陽は大豆ととうもろこしで作るモチが主食。主菜とされる魚は蒸してたっぷりの野菜と一緒に食べます。長寿地域に近い張家界ではレンコン、みょうが、うり、しょうがなどの野菜や、キノコ、ぜんまいなどの乾物、生薬などを料理に使い、果物も豊富です。

地中海地域は、主菜に全粒粉、ライ麦など食物繊維が豊富なパンを食べ、オリーブオイルで味付けをしたサラダを主菜のように大量に食べます。ぶどうやベリー類などの果物も多く食しますが、肉、魚は週に数回食べる程度です。

南米・エクアドルのビルガバンバ地方の主食はイモとトウモロコシ。果物や野菜、香草を多く食べ、乳製品を料理にふんだんに使っています。タンパク質源は焼いたモルモット。

タイなどにはイモムシやゲンゴロウなどを食べる習慣があります。その土地で採れるものを上手く食していることがわかります。

日本の長寿地域の沖縄では、大豆製品や野菜などいろいろな食材を適量の油で炒めたチャンプルーを食べます。豚足は煮込んで油を落として食べます。果物、野菜以外に、昆布などの海藻も多く食べます。

一方短命地域のスコットランドは土地が痩せて野菜があまり穫れず、フィッシュ・アンド・チップスのように、フライにした魚とジャガイモを多く食べます。イギリスでも肉や魚を油で揚げて食べる食事が多く、フランスのレストランでも肉やジャガイモを多量に出されます。コペンハーゲンでは魚を酢漬けにする習慣がありますが、非常に塩辛い。それから燻製の魚、主食は黒パンです。このような食生活はあまり体によくないと皆さんも思われるのではないかと思います。

長寿の地域の食べ物をまとめますと、主食がある。肉、魚や大豆製品など良質のタンパク質源がある。野菜、果物もよく食べます。食塩の害を打ち消すためには、野菜・果物をしっかり食べることが大事です。日本人の食生活には長生きできる要素がいくつも入っていますが、問題もあります。野菜は350g以上摂った方がよいと言われていますが、どの年代もそれより少ない。食塩の目標量は女性7.5g、男性9.0g未満ですが、どちらも越えている。高齢者は特に動物性のタンパク質、乳製品や果物も積極的に食べる必要があります。

2. バランスのよい食事って?

バランスのよい食生活を考えるツールとして、「食事バランスガイド」があります。これは1日に何をどれだけ食べたらよいかを示したものです。「食事バランスガイド」はコマの形をしていて、しっかり食べたいものが一番上に書かれています。1番目は、ごはん、パン、麺などの主食。2番目は、野菜、きのこ、いも、海藻料理などの副菜。3番目は、肉、魚、卵、大豆料理などの主菜。4番目は、牛乳・乳製品と果物。性別、年齢、身体活動量によってコマの種類が変わります。「食事バランスガイド」では肉や魚は3番目ですが、適度に食べないと健康につながりません。肉や魚に含まれるタンパク質は、うつの予防とか、筋肉が落ちない丈夫な足腰を作るとか、インフルエンザの抵抗力をつけるためにも重要です。

3. 健康的な食事へ世界の動き

アメリカの新しい食生活ガイド「マイ・プレート」は、毎回の食事量の4分の1を穀類などの主食、タンパク質を含む食品や野菜、果物もそれぞれ4分の1食べようというもので、それに牛乳・乳製品を付けます。イギリスのフードガイドは、1日の食事のうち穀類が3分の1。ヨーロッパのラトビアは、パンなどの穀類は50%、野菜や果物が30%、肉などが15%、ミルクなどが5%と数字で示されています。オーストラリアは運動や塩についてもフードガイドに書かれています。食事の目安も、国や地域の事情によって違ってくることがわかります。

4. バランスのよい食事の工夫

お米などの主食を食べると、炭水化物、タンパク質、脂質の割合がちょうどいい具合になります。またごはんはいろいろな料理に合うので、食事の食品の種類が広がります。

アメリカでは1日に5皿の野菜や果物を食べようという「5 A DAY」運動をしています。その結果、野菜と果物の摂取量が増加し、生活習慣病による死亡率が減少傾向にあります。毎食野菜を食べるのは難しいですが、前日に下準備をする、常備菜を作る、冷凍のカット野菜などを使ったり、ときには野菜ジュースでもよいですので、「食事に野菜がないと何か物足りない」という感覚を身につけてください。特に朝ごはんに何か副菜を食べるように工夫してみてください。

5. ひとりの努力から環境づくりへ

ある調査では、困った時や病気の時に頼れる人がいない人ほどうつになりやすいことがわかっています。地域活動をしたり、生活に喜びや張りを感じている人の方がうつになりにくいのです。別の研究で元気な高齢者に、健康への心がけや運動習慣について聞いたところ、最も多かった答えが食生活ですが、読書、睡眠、身体を動かすなども答えられています。また、ひとり暮らしは寝たきりになりやすく、地域社会との関わりが大切であることがわかっています。このように長寿には社会とのつながり、社会参加が大事であることがわかります。

また、アメリカなどでは貧困層が多い地域には新鮮な野菜や肉などを売っているお店が少なく、ファストフード店が多いことや、肥満者や肥満ぎみの人が多いことが報告されています。健康づくりには地域づくり、環境づくりも大切なのです。コペンハーゲンの駅で、2~3週間、「階段を利用しましょう」というポスターを貼ると階段の利用者が増えたという報告があります。環境づくりはそんなに難しいことではないかもしれません。みんなで話していって、みんなで手を取って、健康づくり、食べ物のことが考えられたらよいのではないかと思います。